サン・セリフ体の歴史
フランス語由来の語で、「サン(sans)」とは「無い」という意味があります。 「サンセリフ」、つまり「セリフが無い」ということで、サンセリフ体と呼ばれています。 アメリカでは「ゴシック」、ドイツでは「グロテスク」とも呼ばれています。
1. グロテスク(Grotesque)
19世紀末から第一次世界大戦以前に進展したドイツの産業革命の間に開発されました。
ドイツ
- Akzidenz Grotesque(アクチデンツ・グロテスク)……ベルトルド社(1898) ※ソローグッドの「グロテスク」の影響
- Reform Grotesque(リフォーム・グロテスク)……シュテンペル社(1903) ※「アクチデンツ・グロテスク」の影響
- Venus(ヴィーナス)……バウワー社(1907)
スイス
- Normal Grotesque(ノーマル・グロテスク)……ハース社(1910-15)
特徴
- Gは巻かれて閉じる傾向があり、ケズメもある。
- 曲線の先端は斜めカット。
2. Neo Grotesque(ネオ・グロテスク)
グロテスクからネオ・グロテスクへ
- スイス派は当初アクチデンツ・グロテスクまたはジオメトリック系を使用していましたが、
ノーマル・グロテスクをベースにしたノイエ・ハース・グロテスクの登場で、それを支持して使い始めました。
このノイエ・ハース・グロテスクは、1957年に発売され、1961年に「ヘルヴェチカ」と改名されました。 -
アメリカの広告業界もジオメトリック系から離れ始めると、ドイツの活字業者はアメリカにグロテスク系書体を供給して歓迎され、いわゆる「ジャーマン・グロッツ」が流行しました。
- Venus(ヴィーナス)……バウアー社
- Standard(スタンダード)※アクチデンツの別名……ベルトルド社
没個性的サン・セリフの登場
- ジオメトリック系が可読性の見地から避けられて、スイスでグロテスク系のアクチデンツが再評価を受けて、新しいグロテスク(ノイエ・グロテスク、ネオ・グロテスク)が設計され始めます。
-
1957年に「ネオ・グロッツ」書体が一斉に発売された。
- Folio(フォリオ)……バウアー社
- Mercator(メルカトール)……アムステルダム
- Noue Haas Grotesk(ノイエ・ハース・グロテスク)……ハース社
- Univers(ユニヴァース)……ドベルニ・ペイニョ社
- Helveica(ヘルヴェチカ)……ハース社、ステンペル社、後にライノタイプ社も。
- 第二次大戦後も商業印刷の主役の座にあって、ドイツの機能主義デザインを継承したスイスのデザイナーによって「スイス・スタイル」デザインに盛んに用いられたので、「スイス・サン」とも呼ばれています。
とりわけ、ユニヴァースとヘルヴェチカはスイス派を二分して使われました。 - 「スイス・スタイル」……グリッドの援用、無宗教的、無個性的、無国籍的、非時代的という考えによって、1960年代に隆盛をみたインターナショナルな様式を標榜するデザイン。
特徴
- ストロークが洗練されている。
- 字幅(セット・ウィドス)が広め
- 曲線の先端は水平カット。
- 小文字のgがオープン・テイル。
Helvetica(ヘルヴェチカ)
スイスのバーゼルにあるハース社のエデュアルト・ホフマンがアクチデンツ系の差設計を思いつき、チューリッヒのグロテスク書体に精通していたマックス・ミーディンガーに設計を依頼して完成した書体です。
当初の名前は、スイスの国名を表す古い名称の「ヘルヴェチア(Helvetia)」。
国の名称を書体につけるのは憚れたので、語尾を変えたという説、ミシン・メーカーに同様の製品名があるとのことで、変えたという説があります。
1983年に、デジタル・フォントとして「ノイエ・ヘルヴェチカ」発売(ライノタイプ社、シュテンペル社)。類似書体も名前を変えて数種類作られています。
ルフトハンザ社やバスフ社が企業書体として採用されており、日本でもトヨタ自動車やパナソニックといった有名な企業が使用しています。
特徴
- 曲線を自然なストロークになっている。
- 字幅がやや広め。
- エックス・ハイトが高くなっている。
- 先端の斜めのカットを水平にしている。
Univers(ユニヴァース)
ドベルニ・ペニョ社の社長のC・ペニョは美術大学の学生だったアドリアン・フルティーガーの卒業制作に目を留めて、ペニョ社に入社させ、1954年から新しいサン・セリフを設計させました。
フルティガーは入社後、フォーブス、プレジデント、オンディーヌ、メリディアンなどの書体を設計し、やがて幾何学的な単調さのフツーラやヒューマニスティックな温かみのあるギル・サンを学んで、合理的でしかも均整のとれた独創的なサン・セリフであるユニヴァースを完成させました。
ユニヴァースは設計のはじめからファミリーの体系化を目指した書体とされています。
特徴
- レター・スペースがわずかに広く、どの文字との組み合わせでもばらつきがなく、均等に組める。
- オブリーク(イタリック体)の傾きが27度で、ヘルヴェチかの21度より大きい。
- 大文字が目立ちすぎないように、エックス・ハイトをやや高めに設定している。
3. Geometric(ジオメトリック)
定規とコンパスで書かれたような文字ですが、実際にはそれほど単純なフォルムではありません。
1920年代に花開いた工業化社会を映しだした書体で、近代工業を象徴するスピード感のある力強く、直線的で、単純明快な機械的で人工的なフォルム。幾何学的な合理性を様式化した書体です。
可読性に劣るとの評価があります。そのため、見出し用または短文用としては個性的な表情を演出できます
歴史
- グロテスク・サンの開発後のドイツで生まれ、第一次世界大戦(1914-18)後の1920年代に開発され、流行しました。
- 1922年、ヤコブ・エルバールが発表した「エルバール(Erbar)」がジオメトリック系のさきがけとされています。
- ジオメトリック系は、1920年代に花開いた工業化社会を映し出した書体で、合理的な近代工業を象徴し、また人工的なフォルムを有していたため、時代にふさわしいとされていました。
ドイツとアメリカでグロテスク系サン・セリフが人気の中心
- ドイツでは1907年にムテジウスとベーレンスがドイツ工作連盟を設立し、大量生産とデザインとの調和を目指し、1919年にはヴァルーター・グロピウスらがバウハウスを開校して、芸術とデザイン技術との融合を教育理念としました。
- そのような装飾や余計なものを排除する機能合理主義の中にあって、活字書体も文字の裸の姿を前面に打ち出す、サン・セリフ体が好まれました。
とりわけ、幾何学的な合理性を様式化した書体である、ジオメトリック系が流行しました。
合理的フォルムのサン・セリフ登場
- 1925年、ハーバート・バイヤーがユニヴァーサル(Universal)という小文字だけの書体を発表。
- 1927年、パウル・レンナーがフツーラを完成。
特徴
- 丸、三角、四角などの、コンパスと定規で描ける単調な幾何学形態に基づいている。
- ストロークのコントラストが弱い。
- 大文字のGに突起(スパー)がない。
- 小文字のaの多くは一層、gはオープン・テイル。
Futura(フーツラ)
設計者はミュンヘンのブック・デザイナーのパウル・レナーです。
レナーは印刷の専門教育機関を設立し、ヤン・チヒョルトを招きタイポグラフィとレタリングの指導を担当させました。(1926-33)
フツーラは「定規とコンパスで設計された」かのように見られるが、注意深く見ると、視覚補正のための微細な調整がほどこされています。
特徴
- 曲線の先端が直角にカット
- キャップ・ラインはディセンダー・ラインよりも低い
Kabel(カーベル)
設計者はクリングスポール社のデザイナー兼父型彫刻師のルドルフ・コッホです。
KabelはCabelのドイツ語綴りで、ヨーロッパとアメリカを結ぶ海底通信ケーブルの施設にちなんで名付けられました。
モデルはロカルノ、マラトン書体とされています。
Bernhard Gothic(バーンハード・ゴシック)
設計者はアメリカに移住したドイツ人のポスター・デザイナーのルシアン・ベルンハルトです。
バーンハード・ゴシックはアメリカ製のジオメトリック系として知られています。
特徴
- 大文字の重心が低い。
- キャップ・ラインを上下に等分する線よりも低い箇所にヨコのストロークがある文字
- エックス・ハイトが低い。
Avant Garde Gothic(アヴァン・ギャルド・ゴシック)
設計者はITC社の副社長であるハーブ・ルバリンです。
アヴァン・ギャルド・ゴシックは写植用として1969年に完成した書体で、当初はアメリカの雑誌『アヴァン・ギャルド』誌のロゴタイプとしてデザインされました。
特徴
- 差し替え可能な文字や合字があること。
- エックス・ハイトが高い。
4. Humanist Sans(ヒューマニスト)
※資料が集まり次第、公開
公開投稿日:2013/01/13 最終更新日:2015/06/07