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ローマン体の歴史

1. プレ・ローマン体(またはゴシコ・アンティカ体)

  • ブラック・レターからの離別……人文主義者がブラック・レターの使用を避けたことにより。
  • スヴァインハイムとパナルツ、ルシュ、スピラ兄弟による未熟なローマン体(1465-70)
  • スヴァインハイムとパナルツ(Sweinheim and A. Pannartz)は、スビアコ(イタリア)の修道院で印刷を開始し(1464)、後にローマでも印刷物を制作した(1467)。ローマン体に近い書体を使用しました。
  • アドルフ・ルシュ(Adolf Rush)は、初めてローマン体と呼べるような書体を使用しました。
  • スピラ兄弟(Johan and Wendelin de Spira)は、ヴェネチアに初めて印刷術を持ち込み、ローマン体に近い書体を使用しました。
  • これらの印刷者の使った活字は、ブラック・レターからローマン体への橋渡しとなりました。

2. Venetian Roman(ヴェネチアン・ローマン)

Venetian Roman(ヴェネチアン・ローマン)
15世紀のヴェネチア(イタリア)の最初の印刷所であるグーテンベルク工房を設立した2人の兄弟ジョン・スピラ(独/?-1470)とウェンデリン・スピラ(独/?-1478)がヴェネチアン・ローマン体の基となっています。

特徴

  • 大文字のO 、C、D、Gなどのアクシス(軸)が左に傾斜。
  • 小文字のeのバーが右上がり。
  • 小文字のアセンダー・セリフが下向きで斜め。
  • セリフはブラケット型。
  • ストローク(筆線・運筆)の太さに差がすくない。

Jenson(ジェンソン)

Jenson(ジェンソン)
スピラ兄弟のヴェネチアン・ローマン体の基を、彼らの同僚であるニコラ・ジェンソン(Nicolas Jenson / 仏/1420-81)がジョン・スピラの没後に、より洗練させ読みやすく設計した活字書体がJensonです。

  • 復刻版

    • Centaur(セントール) 制作者:ブルース・ロジャーズ(アメリカのブックデザイナー)
    • Adobe Jenson(アドビ・ジェンソン) 制作者:ロバート・スリムバック(Adobe社の主任タイプ・デザイナー)
  • 書体書籍 プリニウス著『博物誌』

3. Old Roman(オールド・ローマン)

Old Roman(オールド・ローマン)
15世紀終わり頃から18世紀にかけてイタリアを発祥として、優美なフランス活字、武骨なオランダ活字へと地域的な変化を遂げながらイギリスまで広まりました。 オールド・ローマンの始まりは彫刻師のフランチェスコ・グリフォ(伊/1450-1518)がアルダス・マヌティウスのために設計した、父型大文字と小文字のバランスを整えた活字書体だと言われています。

特徴

  • 大文字のアクシス(軸)がヴェネチアン・ローマンと同じく左に傾斜している。
  • 小文字のeのバーが水平。
  • ストロークの太さの差がヴェネチアン・ローマンよりも大きい。
  • アセンダー・セリフが斜め。
  • セリフがブラケット型。

Bembo(ベンボ)

詩人であるピエトロ・ベンボ(伊/1470-1547)の著作『デ・エトナ(1495-96)』に使われたローマン体がBemboのモデルです。


オールド・ローマンの始めであり、活字父型彫刻師フランチェスコ・グリフォの作とされています。
1928年にスタンリー・モリスン(1889-1967)が『デ・エトナ』に使われたこの活字を、その著作者の名を冠して復刻した活字が「Bembo」です。

  • 復刻版

    • Griffo(グリフォ) 制作者:ジョヴァンニ・マーダーシュタイク(伊(ヴェローナ)/1892-1977) モリスンがジョヴァンニに『デ・エトナ』の活字の更なる復刻を要請したことがきっかけとなっています。

Garamond(ギャラモン)

Garamond(ギャラモン)
オールド・ローマン体の前期代表格であるGaramondは人文主義者のジョフロア・トリィ(1480―1533)がアルダス工房の古典文学の書物に注目し、それらにもちいられていた活字の研究をクロード・ギャラモン(仏/1510?-1561)に薦めたことで作られました。
クロード・ギャラモンは16世紀当時、活字彫刻師として自身の工房を持ち活躍していましたが、彼の死後は工房は無くなりギャラモン活字は売却され、各地に流れていきました。

Garamondが流れていった先としては、

  • ドイツ

    • フランクフルトにあるクリスチャン・エゲノルフ(独/1502―1555)の活字鋳造所です。1592年には『エゲノルフとバーナー活字鋳造所の見本帳』が発行されおり、この見本帳がGaramondの復刻の基になったものです。
  • フランス 1

    • ベルギーのアントワープにあるクリストファ・プランタン(オランダ(ネーデルランド)/1520?―89)の印刷所です。
      プランタン印刷所は『多国語対照聖書』(1568―73)で知られ、現在は「プランタン・モレトゥス博物館」として一般公開されています。
  • フランス 2

    • ジャン・ジャノン(1580-1658)の活字書体が、スダン・アカデミーの出版物(おそらく1621年に出版されたフランス初の書体見本帳のこと)に公式書体として使用されました。
      のちに宗教上の理由によって、フランス王立印刷局に没収され、そのことによりGaramondの活字であるとの誤解が生じてしまいます。
      これによりGaramondはジャノンの活字書体と混同されたまま、1917年のアメリカ活字鋳造会社(ATF)のGaramondや他の活字メーカーが復刻をしてしまいました。
  • 復刻版

    • Stempel Garamond(シュテンペル・ギャラモン) 制作会社:ドイツのシュテンペル社
      ドイツ風ギャラモンと呼ばれています。
    • Adobe Garamond Pro(アドビ・ギャラモン・プロ) 制作会社:ロバート・スリムバック(Adobe社)
    • ITC Gramamond(ITC ギャラモン) 制作会社:アメリカのインターナショナル・タイプフェイス社
      ジャノン系ギャラモンとして作った書体です。

Sabon(サボン)


ドイツの書籍印刷の業界団体「ドイツ高等印刷組合」は、1960年代に活版印刷技法の変化に伴い仕様や形状が分散されたオールド・ローマン体を統一する復刻に、ヤン・チヒョルト(1902—74)を起用しました。
チヒョルトはGaramondが使用された『エゲノルフとバーナーの活字書体見本帳(1592年発行)』のキャラモンの活字を元に、1960年代にライノタイプ、モノタイプ、ステンペルというヨーロッパを代表する印刷機のすべてに適合した技術仕様で、1967年に「Sabon(サボン)」を作りあげました。
Sabonの名前の由来はギャラモンの活字の行く末に大きくかかわった活字製作者ヤコブ・サボン(?-1580)から名前をとったものとされており、現在でも汎用性の高い名作として広く浸透しています。

  • 復刻版

    • Linotype Sabon Next(ライノタイプ・サボン・ネクスト) 制作者:フランソワ・ポルシェ(設計)
      2003年にライノタイプ・ライブラリー社よりデジタルフォントの高品質を目的に電子活字化

Van Dijck(ファン ダイク)

活字父型彫刻師のクリストフェル・ファン・ダイク(ネーデルランド/1601―69)が作った書体です。


なおファン・ダイクを筆頭とするオランダのオールド・ローマン体は、独特の黒みや骨格の頑丈さをもっているために、現在では「ダッチ・オールド・ローマン」と呼ばれています。

Caslon(キャズロン)

ウィリアム・キャズロン(英/1692—1766)が作ったCaslonはオランダの武骨な特質を穏やかにして洗練さをくわえたことによって「イギリス風で快い」という称賛を得て、後にアングロサクソン系活字書体のオールド・ローマンの代表として位置づけられました。

4. Transitional Roman(トランジショナル・ローマン)

Transitional Roman(トランジショナル・ローマン)
トランジショナル・ローマン体は、オールド・ローマン体からモダン・ローマン体出現までの過渡期(トランジショナル)、また橋渡しの書体と位置づけされています。

特徴

  • アクシス(軸)が垂直、あるいはわずかに傾斜。
  • アセンダー・セリフが斜め。
  • セリフがオールド・ローマンを受け継いでブラケット型。

Baskerville(バスカーヴィル)

Baskerville(バスカーヴィル)
Baskervilleはイギリスの産業革命が始まろうとする時代にジョン・バスカヴィル(英/1706-75)によって作られました。
17歳のころからカリグラフィの教師をするかたわら、石彫の仕事もしていたバスカーヴィルはウィリアム・キャスロン(William Caslon)による活字見本表との出会いがきっかけで、1750年に書体デザインおよび印刷出版の事業に乗り出し、活字父型彫刻師のジョン・ハンディ(?—1793)を雇い、イージー・ヒルの工房で書体設計の地道な研究と実験により、印刷機の一部や印刷インキや印刷用紙などの改良にも努めていたとされています。

  • 復刻版

    • Baskerville(1923年) アドバイザー:スタンリー・モリスン([Times New Roman]の設計者
    • New Baskerville(1978年) 制作者:マシュー・カーター([Meiryo]の設計者)

Fournier(フルニエ)

Fournier(フルニエ)
Fournierはピエール・シモン・フルニエ(仏/1712-68)が作った書体です。
フルニエ活字はバスカヴィル活字と同様に、画線の縦横比が大きく、均質で整理されているという特徴を持っています。


5. Modern Roman(モダン・ローマン)

Modern Roman(モダン・ローマン)
18世紀後半にイタリアとフランスで生まれたモダン・ローマン体は、当時の印刷機の性能が上がり、シャープで繊細な印刷が可能となったために出現が可能となりました。
オールド・ローマン体以前にあるような手書きによる滑らかなローマン体と相反して、機械的な直線のラインとストロークの太さの強弱が大きいことが特徴です。
それは斬新なデザインととらえられる一方で、コントラストの差が強く目がちらつくために、当時のヨーロッパでは批判もあったようです。

特徴

  • ストロークの差が極端に大きい。
  • アクシス(軸)がトランジショナル・ローマンを受け継いで垂直。
  • 小文字のアセンダー・セリフが水平。
  • セリフはヘアライン・セリフ。
  • 曲線部が幾何学的な表情。

Didot(ディド)

Didot(ディド)
Didotはフィルマン・ディド(仏/1764-1836)によって作られた書体で、Fournierのトランジショナル書体の影響を大きく受けています。

  • 復刻版

    • Linotype Didot(ライノタイプ・ディド) 制作者:アドリアン・フルティガー(Universeの設計者) 1991年に制作

Bodoni(ボドニ)

Bodoniはジャンバティスタ・ボドニ(伊/1740-1813)によって1790年以降に設計されたあたらしいローマン体です。


極細でブラケットのないセリフにして、コントラストのつよい直線的で機械的な外観があります。

  • 復刻版

    • Bodoni Antica(ボドニ・アンティカ) 制作者:ギュンター・ゲアハルト・ランゲ(ベルトルド社) 1970年に制作

Walbaum(ワルバウム)

Walbaumはロココ朝華やかな擬古典主義の時代の中、Bodoniの影響を受けたワルバウムが作った書体です。


ドイツ語式発音でバルバウムとも読みます。

公開投稿日:2012/11/27 最終更新日:2015/06/07

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